やくたたずの恋
 志帆の言葉に煽られ、恭平が視線を切っ先のように尖らせる。志帆もまた、彼を責めるために目を向けた。
 かつて、お互いの愛情のままに見つめ合った二人。だが今は、全く違う感情で視線を合わせている。昔の愛情が変質したのか、それとも、新たに芽生えた、別の感情のせいなのか。二人にも、その理由は分からない。
「あ、あの……オプションって……何ですか?」
 重い空気を押し上げるように、雛子が恭平の背中へと問い掛ける。
「お前には関係ない。黙ってろ」
 恭平は吐き捨てるように言うと、志帆を射抜く視線を強めた。
「とにかく、オプションに関してはお断りだ。このガキ臭さが抜けないBカップのヒヨコに、オプションもへったくれもねぇよ。無理だ」
 ガ……ガキ! ガキ臭さって何よ!
 雛子は怒りを恭平にぶつけようとするものの、志帆の、ふふふ、と笑う声に遮られてしまう。
「あなたのそんな姿、久々に見たわ。昔のあなたは、いつも私のために、そんな風にしてくれていたもの。まるで……王子様みたいにね。それとも今は、騎士なのかしら? 大切なお姫様を守ろうとしてるのね」
 志帆の手が恭平の頬に触れ、そこに生えた髭をくすぐるように撫でた。愛情表現の一つであるそれも、今は煩わしい。恭平は彼女の手を乱暴に振り払う。
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