やくたたずの恋
投げ出された志帆の手が、行き着く先を失って落ちていく。ぽたり。心の欠片が溶け出て、足下の海に垂れた。それは、最後の一滴だった。
もう、何も残ってはいない。彼が自分を見てくれなければ、全てが悲しみの海に染まるだけだ。
呆然と恭平を見ていた志帆は、すぐさま不敵な笑みを浮かべた。
「とにかく、考えておいてね。雛子ちゃん」
体を曲げて、恭平の後ろにいる雛子へと声を掛ける。そして志帆は、部屋を出ていった。
ドアの閉まる音と共に、波が引いていく。雛子は、ふぅ、と安堵の息を吐き出し、恭平の背後から抜け出した。そして、スズメのようにちょんちょんと跳ねて、彼の前へと進み出る。
「あ、あの、恭平さん。オプションというものが何なのかは分かりませんけど、私は敦也さんの指名を受けても、全然構わないですよ。敦也さんのこの前の感じはちょっと変でしたけど、たぶんあれはあの日だけのことだと思いますし……」
「お前の意志なんて、どうでもいい」
冷たい言葉なのに、妙に熱がこもっている。口振りは優しくないのに、心が掴まれる。恭平の不思議な声の響きに、雛子は戸惑っていた。
もう、何も残ってはいない。彼が自分を見てくれなければ、全てが悲しみの海に染まるだけだ。
呆然と恭平を見ていた志帆は、すぐさま不敵な笑みを浮かべた。
「とにかく、考えておいてね。雛子ちゃん」
体を曲げて、恭平の後ろにいる雛子へと声を掛ける。そして志帆は、部屋を出ていった。
ドアの閉まる音と共に、波が引いていく。雛子は、ふぅ、と安堵の息を吐き出し、恭平の背後から抜け出した。そして、スズメのようにちょんちょんと跳ねて、彼の前へと進み出る。
「あ、あの、恭平さん。オプションというものが何なのかは分かりませんけど、私は敦也さんの指名を受けても、全然構わないですよ。敦也さんのこの前の感じはちょっと変でしたけど、たぶんあれはあの日だけのことだと思いますし……」
「お前の意志なんて、どうでもいい」
冷たい言葉なのに、妙に熱がこもっている。口振りは優しくないのに、心が掴まれる。恭平の不思議な声の響きに、雛子は戸惑っていた。