やくたたずの恋
 雛子の目がいつも以上に爛々と輝き、恭平を照らす。明るく、眩しい光。長い冬が明けて、やっと訪れた春の太陽は、きっとこんなあたたかさを持っているのだろう。
 恭平は眩しそうに目を細め、雛子を見る。この光とぬくもりを求めていたことに、今更気づいた。ずっとずっと、あの地獄から救い出してほしかった。だけど、それは許されないと思っていた。
 だけど、それは違ったのだ。志帆と共に不幸になることで、全てから逃げていただけだった。志帆の幸せを願うことや、星野や自分の父を許すことから、全力で逃げていた。そして、自分を許すことからも。
「……それって、恭平さんも私のことが好き、ってことですよね? ね? ね?」
 ピンクのオーラを纏った雛子が、ダメ押しとばかりに訊いてくる。
 はい、降参。負けました。白旗を高々と掲げたくなる。
 だがその代わりに、恭平は雛子へと手を伸ばし、彼女の体を抱き寄せた。春の花の香りを体じゅうに巻きつけた、子猫のような彼女を。
「きょ、恭平さん!?」
 突然のことに驚き、強張る雛子の体。それをもっと強く抱き締めれば、素直になれるような気がした。12年前の、目に映るもの全てが美しく見えていた、あの頃の自分のように。
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