やくたたずの恋

    * * *


「雛子ちゃん、何かいいことがあったのかい?」
 翌日、部屋を訪れたばかりの雛子に、星野が問いかけた。
「……どうして分かるんですか?」
 驚きで、雛子の口は貯金箱のように開けっぱなしになる。そんな彼女に、星野はウインクをして見せた。
「だっていつも以上に、雛子ちゃんが可愛く見えるからね。もしかして……恋でもしてるのかな?」
 恋、という一言に反応して、雛子の頬が一気に薔薇色に染まる。ビンゴ! とばかりに、星野は、ははは、と声を上げて笑った。
「そうか、恋か! それはいいことだ! 若いんだから、燃え上がるような恋をするべきだ!」
「……でも残念ながら、そんな情熱的な感じじゃないんです。相手の方が、まだそんなに優しくはないですし……」
 恭平とは今朝も、『Office Camellia』で顔を合わせた。だが、昨日の抱き締め合ったことが嘘か幻であったかのように、彼はいつもと変わらない「おっさん」の雰囲気を出していたのだ。
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