やくたたずの恋
 うーん……。せっかく、お互いの気持ちが分かったんだけどな……。
 ここへとやって来る前にも、恭平に「いってらっしゃいのチュー」をせがんではみたが、「100年早ぇよ! そういうことは、Dカップになってから言え!」と怒鳴られてしまった。
 照れてるのかも知れないけど、恭平さんったらあんなこと言わなくても……。
 雛子の頭に生えたウサギの耳が、しょんぼりして折れている。星野は車椅子を動かし、哀れなウサギへと近寄った。
「それで……冷たくされているからと言って、君は相手の男性を嫌いになるのかい?」
「い、いいえ! そんなことはないです! そんなことで、嫌いになったりしません!」
 ウサギの耳がピン、と立ったことを確認すると、星野はレコードを収納している棚へと車椅子を向けた。
「そうだろう? 恋なんて、そんなものだ。その人が、どんなに冷たくても、酷いことをしていても、全て許せる。それが人を好きになるということだよ」
 棚の前へと辿り着くと、星野はいつものように『くるみ割り人形』のアルバムを取り出す。そのジャケットに描かれたバレリーナに、かつての志帆の姿を重ね合わせた。
 軽やかに踊り、笑顔を見せてくれた志帆。彼女が昔の彼女に戻るまで、どんなことがあっても、許していくしかないのだ。それが自分にできる、愛し方なのだ、と。
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