やくたたずの恋
* * *
その後、雛子は星野とダンスの練習をして、3時間ほどを過ごした。この日は他に仕事がなかったので、星野の家を出た後、恭平へと仕事終了の連絡をし、そのまま帰宅することにした。
夕日が庭木を赤く焼きつける頃、雛子は家に着き、玄関のドアを開けた。その瞬間、中から大きな男の笑い声が響く。どうせまた、父の関係者が来ているのだろう。来客の多い家なので、驚くことでもない。
「おかえりなさい。お父様がお待ちよ。すぐに応接間に行ってちょうだい」
出迎えてくれた母の様子が、いつもと違って神妙だ。戦地に子供を送り出すような、そんな雰囲気。
変なの。雛子は首を捻りながら、応接間へと向かった。
「おお、雛子ちゃん!」
古めかしい応接間のドアを開けるなり、ドスの利いた声が響く。部屋の中央にあるソファには、雛子の父に向かい合うようにして、影山社長が座っていた。
「影山のおじ様……」