やくたたずの恋
恭平にとっては、NGワードとも言うべき、父の名前。それが雛子の口から発せられたことに、恭平は焦りを感じてしまう。
雛子を自分と結婚させようとしていた父が、また何かを引き起こそうとしている――それは不吉としか言いようのないことだ。
「影山社長が、私に恭平さんと結婚せずに……おじいさんと結婚しろって……」
おじいさんと、結婚。復唱する恭平の頭に、志帆の姿が蘇る。星野と結婚することを告げられた、あの日の志帆の呆然とした様子が。
「お、おい! どういうことだよ! ちゃんと説明しろ!」
恭平は雛子の体を揺するが、返事をしようとはしない。しゃくりあげる喉を必死で押さえ、小さな体を恭平に擦りつけている。
「今の彼女に、説明するのは無理だよ、恭平。あれはかなり、彼女にはショックなことだったはずだ」
緩い夜風が吹き抜ける中に、声が聞こえる。恭平は雛子を抱く腕に力を込め、通路へと目を遣った。オレンジ色の明かりに照らされた、エレベーターから続く通路。そこをゆっくりと歩く、スーツ姿の敦也が見えた。
「敦也……お前、どうしてここに……」
「僕もね、ついさっき知ったんだ。ある筋から偶然話を聞いてね。それで、お前を問いただそうと、ここまでやって来た」
雛子を自分と結婚させようとしていた父が、また何かを引き起こそうとしている――それは不吉としか言いようのないことだ。
「影山社長が、私に恭平さんと結婚せずに……おじいさんと結婚しろって……」
おじいさんと、結婚。復唱する恭平の頭に、志帆の姿が蘇る。星野と結婚することを告げられた、あの日の志帆の呆然とした様子が。
「お、おい! どういうことだよ! ちゃんと説明しろ!」
恭平は雛子の体を揺するが、返事をしようとはしない。しゃくりあげる喉を必死で押さえ、小さな体を恭平に擦りつけている。
「今の彼女に、説明するのは無理だよ、恭平。あれはかなり、彼女にはショックなことだったはずだ」
緩い夜風が吹き抜ける中に、声が聞こえる。恭平は雛子を抱く腕に力を込め、通路へと目を遣った。オレンジ色の明かりに照らされた、エレベーターから続く通路。そこをゆっくりと歩く、スーツ姿の敦也が見えた。
「敦也……お前、どうしてここに……」
「僕もね、ついさっき知ったんだ。ある筋から偶然話を聞いてね。それで、お前を問いただそうと、ここまでやって来た」