やくたたずの恋
「お前のせいだよ、恭平。お前がさっさと雛子ちゃんと結婚をせず、ダラダラとしていたせいで、影山社長も横田議員も業を煮やして、こうなってしまったんだ。全て、お前のせいだよ」
「そ、そんなことないです!」
 雛子は恭平の胸から顔を上げ、敦也に反論する。花開く前に力尽きそうな蕾が、必死で自らを咲かせるように、敦也へと前のめりになった。
「私だって……私だって恭平さんを好きになるのに、時間がかかってしまったから……! だから……恭平さんのせいじゃないです!」
「いいや、雛子ちゃん。君がどんなに想っていても、恭平は君とは結婚しないんだ。だって恭平は、影山の家に戻るつもりはないんだから。そうだろう、恭平?」
 勝利の確信を含んだ目で、敦也は恭平を見る。敗者であるはずの恭平は、ぴくりとも表情を動かさなかった。だが、雛子を抱き締める腕だけは、力強いままだった。
「過去に囚われて、目の前の状況に目を向けられないお前には、雛子ちゃんを任せることはできない。そして……僕なら、雛子ちゃんを救える」
 敦也は再び、足を進める。規則正しい彼の靴音は、全ての決着を知らせる鐘の音として響いていた。
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