やくたたずの恋
「お願い……恭平さんを、道連れにしないで……」
雛子の幼い牙に噛みつかれ、志帆はやっとのことで表情を崩した。欠けることのない満月として、青白い笑みを湛えている。涙を零しそうな脆さも奥に秘めながら。
いつの間にか、波は引いていた。だがそれは、次の大きな波を予感させるものでしかない。波の跡を残した恭平の足下に、奇妙な天秤が浮かぶ。それは雛子を傷つけず、幸せにする方法を選ぶためのものだ。
しかし、そんなものを使わずとも、答えは決まっている。選択肢には、自分との結婚は含まれていないのだから。
恭平は覚悟を決め、ドアから体を上げた。そして通路の端に立つ敦也へと、目に見えない泥を漕いで歩いていく。
「敦也、お望み通り、このヒヨコをオプション付きで貸してやる。期限は明日の朝までだ」
「恭平さん……?」
雛子は思わず振り返る。一体何が起こったのか。恭平の言葉を、そのまま理解することはできない。貸す、という響きが、巨大な氷河をも砕く振動として聞こえてくる。
敦也に向き合った恭平は、マジシャンのように手を動かす。はい、ここにあなたの選んだトランプのカードがあります。指先だけをベストの内ポケットに入れ、一枚のカードを取り出した。
「ホテルはここを使え。フロントでこのカードを見せれば、部屋を案内してくれるはずだ」
雛子の幼い牙に噛みつかれ、志帆はやっとのことで表情を崩した。欠けることのない満月として、青白い笑みを湛えている。涙を零しそうな脆さも奥に秘めながら。
いつの間にか、波は引いていた。だがそれは、次の大きな波を予感させるものでしかない。波の跡を残した恭平の足下に、奇妙な天秤が浮かぶ。それは雛子を傷つけず、幸せにする方法を選ぶためのものだ。
しかし、そんなものを使わずとも、答えは決まっている。選択肢には、自分との結婚は含まれていないのだから。
恭平は覚悟を決め、ドアから体を上げた。そして通路の端に立つ敦也へと、目に見えない泥を漕いで歩いていく。
「敦也、お望み通り、このヒヨコをオプション付きで貸してやる。期限は明日の朝までだ」
「恭平さん……?」
雛子は思わず振り返る。一体何が起こったのか。恭平の言葉を、そのまま理解することはできない。貸す、という響きが、巨大な氷河をも砕く振動として聞こえてくる。
敦也に向き合った恭平は、マジシャンのように手を動かす。はい、ここにあなたの選んだトランプのカードがあります。指先だけをベストの内ポケットに入れ、一枚のカードを取り出した。
「ホテルはここを使え。フロントでこのカードを見せれば、部屋を案内してくれるはずだ」