やくたたずの恋
 カードには、有名ホテルの名前や住所がプリントされている。それを受け取りつつ、敦也は恭平の瞳の奥へと問い掛けた。
「恭平……本気か?」
「ああ。本気も本気。超本気。お前が貧乳好きだと気づけなくて、悪かったな」
 出来損ないの福笑いのように、恭平は眉を垂れ下げて、軽口を叩く。それは「おっさん」としての恭平の姿だ。自分の身を守るために、悲しい仮面を被ってしまっているのだ。
「ど、どうして?」
 雛子は叫び、唇を震わせる。王子様でも、おっさんでもない。照れ屋で真面目で素直な、ただの恭平でいい。雛子が好きだったのは、そんな彼だったのに。
「恭平さんは、私にもう敦也さんのレンタルの仕事は入れないって言ったじゃない! 私が心配だから、敦也さんの仕事は受けない、って!」
「うるせぇな! 黙れ、貧乳!」
 見事な「おっさん」と化した恭平は、雛子の前に進み、彼女の頭を撫でた。
「女好きで死にぞこないの80歳のジジイと結婚するのと、敦也と結婚するのと、どっちがマシだと思ってんだ? その平べったい胸に聞いてみろ。答えは分かるだろ?」
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