やくたたずの恋
雛子の髪に恭平の指が入り込み、素直な気持ちを伝えていく。どうか彼女が、幸せでありますように。この可愛い人が、笑顔を失うことがないように。
……いやだ。いやだよ、恭平さん。
雛子は何度も首を振り、声にならない言葉を吐き出す。それを受け取ることなく、恭平の手が離れていく。
「好きな男と結婚できない苦しみの味は、いかが?」
悲しみのスープをスプーンで掬い上げ、雛子の口に捻じ込みながら、志帆は囁く。その味に雛子が顔を顰めれば、嬉しそうに目を細めた。それは、恭平を勝ち取った者の顔ではない。恭平と共に、敗者となることを喜んでいるだけなのだ。
「……じゃあ、雛子ちゃん。そろそろ行こうか」
こちらへと近づいた敦也に手を取られ、雛子は通路の中で足をふらつかせた。
「や……やだ! いやだよ! 恭平さん!」
助けてほしくて、振り向いてほしくて、雛子は叫ぶ。だが恭平は、雛子を見ることはない。川の上流へと遡るように、ゆっくりと足を進め、部屋のドアへと向かっていく。志帆もそれについていき、開けたドアの奥へと、二人で消えていってしまった。
……いやだ。いやだよ、恭平さん。
雛子は何度も首を振り、声にならない言葉を吐き出す。それを受け取ることなく、恭平の手が離れていく。
「好きな男と結婚できない苦しみの味は、いかが?」
悲しみのスープをスプーンで掬い上げ、雛子の口に捻じ込みながら、志帆は囁く。その味に雛子が顔を顰めれば、嬉しそうに目を細めた。それは、恭平を勝ち取った者の顔ではない。恭平と共に、敗者となることを喜んでいるだけなのだ。
「……じゃあ、雛子ちゃん。そろそろ行こうか」
こちらへと近づいた敦也に手を取られ、雛子は通路の中で足をふらつかせた。
「や……やだ! いやだよ! 恭平さん!」
助けてほしくて、振り向いてほしくて、雛子は叫ぶ。だが恭平は、雛子を見ることはない。川の上流へと遡るように、ゆっくりと足を進め、部屋のドアへと向かっていく。志帆もそれについていき、開けたドアの奥へと、二人で消えていってしまった。