やくたたずの恋
「酷い顔。そんな顔をするなんて、可哀想な男ね」
「可哀想? 俺が?」
「そうよ。あなたがまだそんな顔をできるなんて、知らなかったわ」
 恭平は志帆と別れた時から、仮面を被っていた。全てをニヒルに受け流し、溢れる感情を皮肉にすり替えてしまう、狡さの証として。
 二人で過ごしていた頃は、いつも一緒に笑って、泣いて、喧嘩もした。彼のそんな時の自然な表情は、もう見られないと思っていたのに。
 それが今、ここにある。だがそれは、志帆のためのものではない。
「あなたは……あのお嬢ちゃんを、好きなのね」
 言ってしまった後、志帆は恭平の否定を待っていた。「違う」とか「何言ってんだよ」とか、昔のように冗談交じりで笑い飛ばしてほしかった。
 だけど、それがないことぐらい、もう分かっている。分かっているのに、どうしても求めてしまうのだ。
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