やくたたずの恋
「雛子ちゃん。僕は君と結婚したいと思っている。この気持ちを、受け止めてほしいんだ」
 敦也は雛子の肩に手を置き、真摯な目を向けている。爽やかだ。こんなベッドを目の前にした状況においても、彼の全てが爽やかだ。
 でも雛子は、「爽やか」などという形ないものと、恋人になりたくはない。もちろん結婚だってしたくはない。
 私が好きなのは、恭平さんだもの……。
 恭平が敦也に自分を差し向けた気持ちは、十分理解できる。自分が結婚相手になれないならば、より良い相手と結婚できるように。そんな悲しい配慮だということが。
 だからと言って、喜ばしいことがある訳ではない。敦也がどんなに愛を語ろうとも、これが恭平の口から出た言葉だったら、と思うことしかできないのだ。
「敦也さんは……私が好きなんですか?」
 雛子が問い掛ければ、敦也はすぐさま「もちろん、好きだよ」と答える。
 たぶん、この言葉は嘘ではない。敦也が真剣に、自分を思っていることは伝わってくる。だけど何かが違うのだ。雛子が心から求めている、愛情とは異質なものだ。
 その不安の正体を探ろうと、雛子は敦也の顔に目を這わせ、もう一度問いを繰り出した。
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