やくたたずの恋
「私が、横田雛子じゃなくても? 私が……代議士である横田広明の娘じゃなくても、好きですか?」
「うん。まぁ……そうかな?」
「私が……志帆さんみたいに、人を恨んだりするような人間になっても、好きでいてくれますか?」
「えっと……それって今、答える必要があるかな?」
「いいから答えて!」
 雛子の涙を溜めた瞳に迫られ、敦也の澄んだ甘い顔がカフェオレのように濁り出す。その表情をぐるぐると大きなスプーンで掻き混ぜた。すると、カップの底に沈殿した彼の気持ちが、表面に浮かんでくる。
「それは……今ははっきりと答えられないよ。想像もつかないことだし、実際にそうなってみないと、分からないって言うか……」
 真面目な敦也らしい、正直な答えだ。ここは嘘でも、「そんな君でも愛し続けるよ!」と言うべきなのに。
 そんな絶望を抱えながらも、雛子は喜んでいた。違う。この人じゃない。そのはっきりとした気持ちが、確認できたのだから。
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