やくたたずの恋
「おい、貧乳! さっさと出て来い!」
 ドアに寄りかかっていた雛子の体が、ドアと共にびりりと震える。雛子は振り返り、泣き腫らした目をドアへと向けた。
 彼だ。彼が来ている。恭平の声を聞いた瞬間、全身の血液が一気に沸騰し、体を火照らせた。
「敦也は帰らせたし、もう心配は要らねーよ。俺がせっかく迎えに来てやってるんだから、早く出て来い!」
「嫌です!」
 雛子は即答し、涙を拭いていたバスタオルに顔を埋める。そして、どくん、と強く早く脈打つ心臓を、落ち着かせようとした。
 嬉しい。恭平が自分を迎えに来てくれたことが、嬉しくて仕方がない。だけど、自分を敦也と結婚させようとした彼を、許したくはない。
 その二つの思いが糸になって、奇妙な色合いの布を織りあげていく。それは雛子の心の中で、拗ねる、という子どもじみた反応へと変わっていった。
「だって恭平さんは、私を見捨てたんだもん! もう敦也さんの仕事入れないって言ったくせに、約束は破るし……」 
「でもそれは、お前のためを思ってのことだからな!」
「じょ……冗談でしょ!? あれのどこが私のためなんですか? 恭平さんが、私から逃げただけでしょ!? 私と結婚することはできないからって……!」
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