やくたたずの恋
 恭平が再び耳に唇を寄せ、ぬるい風を吹き込むキスをする。瞬間、箱入り娘としての防御本能が働き、雛子は体を固まらせてしまった。
 エマージェンシー! 緊急事態に気づいた恭平は、唇も手も、全ての動きを停止させた。
「……嫌か?」
「い、いいえ! 嫌じゃありません! ぜ、ぜひ続きをお願いします!」
「何だそりゃ」
 笑う恭平の顔は、真夏の太陽のような眩しさで溢れている。それを見上げれば、きゅん、と胸が鳴る。
 ……好き。私、やっぱり、この人が好きなんだ。
 そう思えば、彼とは一瞬たりとも離れたくはない。雛子は恭平の背中に手を回し、体を密着させた。
「続きが……したいです。恭平さんと……」
 雛子としては、無意識のうちに出た言葉だった。しかし、言ってしまった数秒後、自分の無意識を呪ってしまう。
 ちょ……ちょっと! もしかして私、とんでもないことを言ったんじゃ……!? これじゃあまるで、私が誘ってるみたいじゃない!
「淑女というものは、決して殿方の前では、はしたない振る舞いや発言をしてはいけませんよ」
 雛子が通っていた女子校の、担任の先生の言葉を思い出し、雛子は心の中で謝罪する。
 先生……ごめんなさい! 今の私、全然淑女じゃないです! 超はしたないです!
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