やくたたずの恋
 こ、こういう時、どうしたらいいんだろ……。
 天井にふらふらと彷徨わせていた目を、救いを求めるように恭平へと向ける。ベッドの上で膝立ちになっている彼は、自らも服を脱ぎ始めているところだった。
 スーツやシャツが雛子の視界から消え去り、筋肉で包まれた彼の体だけが残る。それがゆっくりとこちらに近づいてきた。距離は0ミリ。ベッドとの間に手を差し込み、恭平は雛子を抱き締める。
 固い筋肉と体温の熱。そこから湧き出る彼の匂いが、雛子を恭平と二人だけの世界に誘い込む。そして肌に直接触れることで、はっきりと感じた。恭平は心から、自分を求めてくれている。そして自分も、この人とずっとこうしたかったのだ、と。
 恭平の唇と指が肌をなぞれば、雛子の中が恭平で染まっていくような気がした。純白のかき氷に赤いシロップが注がれ、ゆっくりとピンクの氷河ができていく。あんな風に、彼の中をも染めていきたい。
「恭平さん……」
 既に恭平の一部と化した体で、雛子が譫言のように呟く。その唇を、恭平が塞いだ。全身で彼女と繋がろうとする意志のまま、何度も唇を交わらせる。
「愛してる」
 二人の口の隙間から囁かれる、恭平の言葉。それが注がれれば、雛子の心と体が一気に軽くなる。
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