やくたたずの恋
志帆は部屋の中央で立ち尽くしていた。ソロで踊り出すダンサーが、スポットライトを待つかのように、そっと視線を上げる。
「恭平は、今の私は、昔の私じゃないって……。でも……分かってたんです! それは私だけじゃない! 恭平だって、もう昔の恭平じゃない! 私が大好きだった頃の、恭平じゃない! なのに私は……」
淡々と語っていたはずの志帆が、感情を高ぶらせ、最後には絶叫に近い声を上げた。
全てを吐き出し、何も残ってはいない体。それを蛇腹のように折り曲げてへたり込み、はらはらと涙を流し始めた。
星野との結婚の話が出た時、恭平は必死で食い止めようとしてくれた。「駆け落ちをしよう」と言ってくれたのも恭平だった。
駆け落ちの待ち合わせ場所に、結局彼は来なかった。後からそれは、自分の両親までもが彼を引き止めたせいだと聞かされ、志帆はついに絶望の海へと突き落とされた。
私にはもう、恭平しかいない。恭平だけが、私の味方でいてくれる……。
それはもう、愛や恋というものではなかった。執着とか依存とか、そんなおぞましいものへと形が変わってしまっていたのだ。
志帆の耳に、キュ、と甲高い音が響く。それは、地獄に住むコウモリの鳴き声に似ていた。だが、ここは地獄ではない。視線だけを上げると、星野が車椅子を小刻みに動かし、隣へとやって来ていた。
「恭平は、今の私は、昔の私じゃないって……。でも……分かってたんです! それは私だけじゃない! 恭平だって、もう昔の恭平じゃない! 私が大好きだった頃の、恭平じゃない! なのに私は……」
淡々と語っていたはずの志帆が、感情を高ぶらせ、最後には絶叫に近い声を上げた。
全てを吐き出し、何も残ってはいない体。それを蛇腹のように折り曲げてへたり込み、はらはらと涙を流し始めた。
星野との結婚の話が出た時、恭平は必死で食い止めようとしてくれた。「駆け落ちをしよう」と言ってくれたのも恭平だった。
駆け落ちの待ち合わせ場所に、結局彼は来なかった。後からそれは、自分の両親までもが彼を引き止めたせいだと聞かされ、志帆はついに絶望の海へと突き落とされた。
私にはもう、恭平しかいない。恭平だけが、私の味方でいてくれる……。
それはもう、愛や恋というものではなかった。執着とか依存とか、そんなおぞましいものへと形が変わってしまっていたのだ。
志帆の耳に、キュ、と甲高い音が響く。それは、地獄に住むコウモリの鳴き声に似ていた。だが、ここは地獄ではない。視線だけを上げると、星野が車椅子を小刻みに動かし、隣へとやって来ていた。