やくたたずの恋
* * *
微かに、明るい日差しを瞼に感じる。ゆっくりと開けば、目の前には恭平の顔があった。一瞬の驚きの後、雛子は上体を起こす。裸のままで包まっていたシーツを引きずり上げ、胸元を押さえて恭平の寝顔を覗き込んだ。
眠れる森のおっさんは、まだ熟睡モードのようで、ぴくりとも動かない。長めのまつげで縁取られた目は開く気配もないし、体も完全に脱力しきっている。
雛子は指を伸ばし、恭平の眉間に触れた。スキーで滑降するように鼻筋をなぞり、鼻先でジャンプする。着地したのは、その下にある唇だ。
かさついた、唇の感触。昨日の夜は、これが雛子の全身を這っていたのだ。それを思えば、うずうずした気持ちが募っていく。
そしてそれは、どうも治まりそうにない。えい、と勢いをつけると、雛子は背中を屈めて、恭平にキスをした。すると100年の眠りから目覚めるように、重い瞼をゆっくりと上げ始めた。
「……おはよう」
「お、おはようございます……」
恭平は半開きの目のままで、雛子の腕を引き寄せ、頬に口づけた。
「体……辛くないか?」
「いいえ。大丈夫です」