やくたたずの恋
意地悪。雛子はその気持ちを込めて、恭平を睨んだ。わざと雛子を怒らせようとする彼の態度は、今始まったことではない。
だけど、今回のは酷すぎる。初めてのことで、ただでさえも恥ずかしい上に、よく分からないことだらけなのに、それをネタにするなんて。
フグのように頬を膨らませる雛子に、恭平は歯を見せて笑う。そして何とか怒りを静めようと、彼女にキスをした。
「ありがとう。雛子の初めてを、俺にくれたんだよな」
不意に囁かれた言葉に、雛子は怒りを忘れて恭平を見た。以前、寝ぼけながら「志帆」と呼んで、雛子の手にキスをしていた時と同じ、優しい顔をしている。
おっさんは卑怯だ。どんな酷いことをしても、その後の傷ついた心に絆創膏をきちんと貼りつける。それがおっさんによって心が浸食された証になり、深い想いに変わってしまうのだから。
ずるい、ずるい、ずるい! 何度も心で叫ぶ雛子の下に、再び恭平の唇がやって来る。余裕の表情を見せる恭平に反感を覚えながらも、雛子が彼のキスに応えようとした時だった。大きな電子音が、部屋じゅうに響き渡った。
サイドボードにある備え付けの電話が、早く出ろ、とけたたましく叫ぶ。雛子は慌てて、シーツを胸までたくし上げた。
「私が出ます」
腕を伸ばして受話器を取ると、フロントの係員と思われる女性の声が聞こえてきた。
「横田様より、外線のお電話が入っております」
横田? 自分の姓を言われ、雛子は首を傾げる。だが、外線電話から聞こえてきた声に、現実を取り戻した。
だけど、今回のは酷すぎる。初めてのことで、ただでさえも恥ずかしい上に、よく分からないことだらけなのに、それをネタにするなんて。
フグのように頬を膨らませる雛子に、恭平は歯を見せて笑う。そして何とか怒りを静めようと、彼女にキスをした。
「ありがとう。雛子の初めてを、俺にくれたんだよな」
不意に囁かれた言葉に、雛子は怒りを忘れて恭平を見た。以前、寝ぼけながら「志帆」と呼んで、雛子の手にキスをしていた時と同じ、優しい顔をしている。
おっさんは卑怯だ。どんな酷いことをしても、その後の傷ついた心に絆創膏をきちんと貼りつける。それがおっさんによって心が浸食された証になり、深い想いに変わってしまうのだから。
ずるい、ずるい、ずるい! 何度も心で叫ぶ雛子の下に、再び恭平の唇がやって来る。余裕の表情を見せる恭平に反感を覚えながらも、雛子が彼のキスに応えようとした時だった。大きな電子音が、部屋じゅうに響き渡った。
サイドボードにある備え付けの電話が、早く出ろ、とけたたましく叫ぶ。雛子は慌てて、シーツを胸までたくし上げた。
「私が出ます」
腕を伸ばして受話器を取ると、フロントの係員と思われる女性の声が聞こえてきた。
「横田様より、外線のお電話が入っております」
横田? 自分の姓を言われ、雛子は首を傾げる。だが、外線電話から聞こえてきた声に、現実を取り戻した。