やくたたずの恋
「もしもし? 雛子!? 雛子なの?」
「お、お母様!?」
そうだ。そうだった。雛子は山崎会長との縁談の話を出され、家を飛び出した後、父や母と一切連絡を取っていなかったのだ。
無断外泊をしてしまった。その事実に、雛子は顔をコンクリートの色へと、一瞬で変えていく。そんな彼女の反応とは裏腹に、電話口の母の声は意外なほど明るいものだった。
「ああ、よかった! やっぱりそのホテルにいたのね。昨日、あなたが家に帰って来なかったから心配してたのよ!」
雛子は隣にいる恭平を見ながら、口ごもる。恭平は雛子の緊急事態に気づいたようで、「何かあったら、俺に代われ」と口をパクパクさせている。
「ごめんなさい、お母様。あの……」
何とか言い逃れようと、雛子が話し始めると、母は「大丈夫よ!」と声を上げた。
「近藤さんが、そのホテルにあなたを泊まらせてくれたんでしょう? さっき近藤さんからそう伺って、びっくりしたのよ!」
「え? 近藤さんって……」
コンドウ? 誰のこと? 雛子の頭には、謎の人物としての黒い影しか浮かばない。しかし母は、喜々とした様子で言葉を続けている。
「近藤さんって言ったら……近藤敦也さんのことよ! あなた、敦也さんとお付き合いしてるんですって?」
「え? わ、私が、敦也さんと!?」
突然雛子の口から飛び出した敦也の名に、恭平は目を大きく見開いた。その奥にある不安を見つめる雛子の体は、一気に冷たくなっていった。
「お、お母様!?」
そうだ。そうだった。雛子は山崎会長との縁談の話を出され、家を飛び出した後、父や母と一切連絡を取っていなかったのだ。
無断外泊をしてしまった。その事実に、雛子は顔をコンクリートの色へと、一瞬で変えていく。そんな彼女の反応とは裏腹に、電話口の母の声は意外なほど明るいものだった。
「ああ、よかった! やっぱりそのホテルにいたのね。昨日、あなたが家に帰って来なかったから心配してたのよ!」
雛子は隣にいる恭平を見ながら、口ごもる。恭平は雛子の緊急事態に気づいたようで、「何かあったら、俺に代われ」と口をパクパクさせている。
「ごめんなさい、お母様。あの……」
何とか言い逃れようと、雛子が話し始めると、母は「大丈夫よ!」と声を上げた。
「近藤さんが、そのホテルにあなたを泊まらせてくれたんでしょう? さっき近藤さんからそう伺って、びっくりしたのよ!」
「え? 近藤さんって……」
コンドウ? 誰のこと? 雛子の頭には、謎の人物としての黒い影しか浮かばない。しかし母は、喜々とした様子で言葉を続けている。
「近藤さんって言ったら……近藤敦也さんのことよ! あなた、敦也さんとお付き合いしてるんですって?」
「え? わ、私が、敦也さんと!?」
突然雛子の口から飛び出した敦也の名に、恭平は目を大きく見開いた。その奥にある不安を見つめる雛子の体は、一気に冷たくなっていった。