やくたたずの恋
* * *
「君が僕に言いたいことは、分かっているよ」
これから出勤するという敦也を見送るため、雛子は彼と共に、玄関ポーチから門へと続くアプローチを歩いていた。
朝の澄んだ空気を吸い込みながら、嘘つきプリンスは、自分の嘘をひけらかすように笑う。
「僕と君が付き合っているとか、昨日は僕の判断でホテルに泊まらせたとか……なぜそんな嘘をつくのか、と君は訊きたいんじゃないのかな?」
大正解。だけど賞品は何も出ない。雛子は恭平の話の続きを聞こうと、飛び石をゆっくりと踏み締める。
「僕は、君を守りたかったんだよ。山崎会長のような老人と君が結婚するなんて、僕には耐えられない。そして何よりも、僕は君と結婚したかったんだ」
綿雲を浮かべた青空に馴染んだ、敦也の表情。それは、自分を信じ切っているものだった。自分には間違いなど何一つない、と言い切れる、強さを持った顔だ。
そして更には、他者の意見を決して受け付けないことを宣言している。自分が正しいのだから、自分に従えばいい。言葉に出さずとも、雛子へとそう伝えている。