やくたたずの恋
 本当に自分を好いてくれるのならば、どうして放っておいてくれなかったのか。恭平との未来を、夢見させてはくれないのか。
 そう思うものの、もう遅いような気がしていた。父も母も、敦也との結婚を了承し、敦也の父も納得している。そんな状況を、ちっぽけな雛子一人ではどうすることもできない。
「それと……言っておくけどね」
 敦也は雛子より一歩前に足を進め、顔を見せずに呟いた。
「君が恭平と結婚することは、始めから無理だったんだ。多額の利息をむしり取り、債務者を不幸にするような家業を憎んでいるあいつが、影山の家に戻ることは不可能なんだから」
 そんなことは、分かっている。当たり前の事実を繰り返されたところで、雛子には何の意味もない。
 そんな現実があっても、その人を好きになったり、その人が必要だったりすることもあるでしょう?
 雛子は言葉に出さずに、敦也へと問い掛ける。返事や反論などは求めていない。それが雛子にとっての、紛れもない真実なのだから。
 前を歩いていた敦也が、不意に立ち止まる。正面門を目前にして、敦也は背後の雛子へと振り返った。
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