やくたたずの恋
午前中の予約が入っている女性たちが、次々に顧客の下へと向かうために出ていく。一気に静かになった事務所に、窓から白い光が差し込んでいる。恭平はその中に手を伸ばし、開いたり閉じたりを繰り返していた。
ぎゅっと握れば、雛子をこの手で掴んでいたことを思い出す。確かに彼女は、自分の傍にいたのだ。ある時はしつこいほどに。またある時は、彼女なしではいられないと感じるほどに。
ぱっと手を開く。瞬間、雛子の感触が離れ、光の中へと飛び散っていく。あの夜のことさえも、幻だったのではないかと思えてしまう。
いや、幻ではない。彼女はこの腕の中にいた。慣れない行為に恥ずかしがりながら、必死で恭平の想いに応えようとしていた。恭平さん、といつもよりも粘り気のある口調で、名前を何度も呼んでくれた。白く細い腕をこの背中に絡ませ、ミルクに似た甘い吐息を肩口に吐きかけていた。
それが幻であるはずなどない。ただ彼女が、その次の朝にホテルを出ていった後から、姿を見せなくなっただけだ。
雛子の携帯電話にも連絡を入れたが、電話にもメールにも応答はない。どうして? とは思わない。理由は分かっている。おそらく、敦也が絡んでいるのだろう。
ぎゅっと握れば、雛子をこの手で掴んでいたことを思い出す。確かに彼女は、自分の傍にいたのだ。ある時はしつこいほどに。またある時は、彼女なしではいられないと感じるほどに。
ぱっと手を開く。瞬間、雛子の感触が離れ、光の中へと飛び散っていく。あの夜のことさえも、幻だったのではないかと思えてしまう。
いや、幻ではない。彼女はこの腕の中にいた。慣れない行為に恥ずかしがりながら、必死で恭平の想いに応えようとしていた。恭平さん、といつもよりも粘り気のある口調で、名前を何度も呼んでくれた。白く細い腕をこの背中に絡ませ、ミルクに似た甘い吐息を肩口に吐きかけていた。
それが幻であるはずなどない。ただ彼女が、その次の朝にホテルを出ていった後から、姿を見せなくなっただけだ。
雛子の携帯電話にも連絡を入れたが、電話にもメールにも応答はない。どうして? とは思わない。理由は分かっている。おそらく、敦也が絡んでいるのだろう。