やくたたずの恋

「雛子ちゃんはもう、ここへは来ない。彼女は、僕と結婚することが決まったんでね」
「えええええええ！」
　敦也の背後で、悦子が体を屈めながら叫ぶ。
「あ……敦也さん、ヒヨコちゃんと結婚するの!?　ほ、本当に？　マジで？　大マジで？」
「もちろん本当だよ、悦子ちゃん。昨日、両家の挨拶も済ませたところでね」
　驚きで顔が伸びてしまっている悦子へと振り返った後、敦也はすぐさま恭平へと視線を戻した。恭平の表情は厳しさを保ったまま、微動だにしない。それが彼のショックの度合いを示していた。
「言っただろう？　全てはお前のせいなんだ。お前がさっさと影山の家に戻り、彼女と結婚すれば、こんなことにはならなかった。だけどお前は、影山の家に戻ることはできないんだろう？」
　辛辣なことを言っているにもかかわらず、口振りは至って爽やかだ。昔から敦也はこうだった。きついことを言う時の方が、より爽やかに、より軽やかな言葉になる。
「家業を嫌うだけ嫌って、何の行動も起こさず、死んだフリをしているようなお前には、雛子ちゃんはもったいないよ」
　小声ながらも、威圧的に敦也は呟く。恭平はそれに対して、一つの言葉も発しようとはしない。