やくたたずの恋
「じゃあ、邪魔したね」
 悦子に軽く挨拶をして、敦也は部屋を出ていった。玄関のドアが閉まる音がした後、悦子は恭平へと駆け寄った。
「ちょっと、影山ちゃん! あんた、どうするつもりなの!?」
「……何が?」
「ヒヨコちゃんが敦也くんと、結婚しちゃってもいいの?」
「……それのどこが悪いんだ?」
「悪いとか良いとかじゃないわよ! あんたにとって、雛子ちゃんは何なのか、って話よ!」
「何でもねぇよ、あんなヒヨコ。うるせぇだけのガキだ」
 煙草の煙と共に吐き出せば、嘘も真実も全て塵となり、どこかへと消えていく。それを繰り返せば、きっといつかは、この苦しさもなくなる。
 人間はどうせ、生きても100年ほどの命だ。ならば、あと70年もすれば、この身さえもなくなる。たとえ彼女を一生忘れられなくても、その時にはこの想いも一緒に朽ちていける。
 70年。その時間を思い、恭平は煙を吐き出す。真っ直ぐに進んだ煙の先を見つめれば、何も残らない、空っぽな未来があった。
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