やくたたずの恋
恭平にとっての変わらないもの。それは愛する人への想いだ。12年もの間、志帆を想い続けていた。形や色は変わっても、その核にある彼女への純粋な想いは、一つも変わっていなかった。
――一度好きになった人を、そう簡単に嫌いになんてなれません――
雛子がホテルで言った言葉が、ふと蘇る。恭平は、あの時と同じ答えを口にする。
「奇遇だな。俺もだよ」
嫌いになれないなら、好きでいればいい。だがもう、悲しみの海に身を沈めながら、相手を思い続けるのはご免だった。
じゃあ、どうすれば? 答えはただ一つ。「おっさん」を止めることだ。時間の止まった、これ以上何の進歩も起こらない「おっさん」という安住の地から、旅立つしかない。
煙草の火が迫ってくるのを感じ、恭平は慌てて灰皿にその火を押しつける。その勢いのまま立ち上がると、横にあるポールハンガーからジャケットを取り、羽織った。
「ちょっと、出かけてくる」
「どこに行くの?」
ドアへと歩き始めた恭平に、悦子が背後から問い掛けた。恭平は一瞬口ごもるも、振り向かずに静かに呟いた。
「……里帰りだよ」
――一度好きになった人を、そう簡単に嫌いになんてなれません――
雛子がホテルで言った言葉が、ふと蘇る。恭平は、あの時と同じ答えを口にする。
「奇遇だな。俺もだよ」
嫌いになれないなら、好きでいればいい。だがもう、悲しみの海に身を沈めながら、相手を思い続けるのはご免だった。
じゃあ、どうすれば? 答えはただ一つ。「おっさん」を止めることだ。時間の止まった、これ以上何の進歩も起こらない「おっさん」という安住の地から、旅立つしかない。
煙草の火が迫ってくるのを感じ、恭平は慌てて灰皿にその火を押しつける。その勢いのまま立ち上がると、横にあるポールハンガーからジャケットを取り、羽織った。
「ちょっと、出かけてくる」
「どこに行くの?」
ドアへと歩き始めた恭平に、悦子が背後から問い掛けた。恭平は一瞬口ごもるも、振り向かずに静かに呟いた。
「……里帰りだよ」