やくたたずの恋
 12年ぶりに会ったというのに、この調子だ。元々、ベッタリと仲のいい親子ではなかったせいもあるが、どうしても喧嘩口調になってしまう。だからと言って、お互いに歩み寄ろうとは少しも思わない。
「バカ息子の親である俺もバカかも知れんが、お前は本当にバカだよなぁ。せっかく俺がお前にチャンスをやったのに、みすみすそれを逃しやがって!」
「あぁ? チャンス? 何のことだよ」
 腕組みをして尋ねる恭平に、影山社長はカエルに似た不気味な笑みを見せる。
「雛子ちゃん、可愛かっただろ? しかも昔の志帆ちゃんに似てるしな! だから雛子ちゃんになら、お前も食いつくと思ったんだが……俺の見当違いだったか?」
 やっぱりそうだったのか。予想はしていたものの、実際にその「計画」を訊かされると、ダメージを感じる。
「……で、雛子を餌にした訳だ。影山の家に俺を戻すために」
「まぁな。何だかんだ言っても、お前は俺の息子で、この『影山興業』の社長の跡取りだからな!」
「跡継ぎったって、別に世襲にしなくてもいいだろ? 優秀な社員がいるんだがら、その中から後継者を選べばいいんじゃねぇの?」
「まぁ……。そうも思ったんだが、どうもな……」
 影山社長は恥ずかしそうにしながら、目を逸らす。変身を見破られた狸のように、バツが悪そうだ。その姿を、社長の正面に座る水野がクスクス笑いながら見ている。
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