やくたたずの恋
「俺も歳なんだろうなぁ。孫の顔、ってモンが見たくなってなぁ。一度でいいから、『おじいちゃん』なんて呼ばれてみてぇなぁ……って思っちまったんだよ。『おじいちゃん、だいすき!』なんて言われた日にゃあ、全財産あげちまうぞ!」 
「それでこのザマァかよ……」
 お釈迦様の手の上で踊らされるならまだしも、こんなチビデブハゲの掌で転がされていたとは。半開きになった恭平の口からは、全ての力が抜けていきそうだった。
「ああ! まったくいいザマァだよ、お前は!」
 息子のまぬけな姿に、影山社長のハンプティ・ダンプティに似た体からは、ははは、と笑い声が上がった。
 笑い事じゃねぇよ! その怒りのままに、「うるせぇ!」と恭平は叫ぶ。
「その根っこの原因を作ったのが、てめぇだろうが!」
「根っこってのは、何のことだ? 雛子ちゃんのことか? それとも……志帆ちゃんのことか?」
 志帆の名前を出され、恭平の表情が一瞬で引き締まる。この部屋に隠されていた記憶が、一気に恭平の脳裏へと蘇ってきたのだ。
 ここは12年前に、志帆が星野との縁談の話を聞かされた場所だった。このソファに父と恭平、そして志帆の一家が腰掛け、父があの話をし始めた時。それが絶望のスタート地点となってしまったのだ。
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