やくたたずの恋
12年前の記憶に惑わされる息子へと、影山社長は変わらぬ視線を注ぐ。責めている訳でもない、哀れんでいる訳でもない。ただ、変わらない真実だけを見ている目で。
「恭平。俺はなぁ、志帆ちゃんの一件を悪いとはこれっぽっちも思っちゃいねぇぞ! 俺たちはこういう商売なんだ! 人様を不幸にしてでも、貸した金は返してもらう。それが俺たちの正義であり、信念なんだ!」
影山社長は、大きな体を縮めて、ふぅ、と息を吐き出した。そして再び空気を吹き込むように息を吸うが、急に声が小さくなっていた。
「……だが、これでもな、お前の気持ちは分かっているつもりだ。俺がやったことで、お前が俺を嫌って、家を出ていくのも当然だと思っているさ」
父は、すまなかった、と一言、恭平に言いたいのかも知れない。だがそれは、父のこれまでの『影山興業』の経営を否定することになる。だからこそ父には、謝罪の一つもできはしない。
どうしようもねぇな。呆れた気持ちから、涙と笑いが湧き出そうになる。何とかそれを堪え、恭平は部屋の突き当たりに広がる大きな窓を見た。
このビルが完成した時、恭平は16歳だった。父は誇らしげに恭平をこの部屋に入れ、あの窓からの眺めを見せてくれたものだった。
遠くまで広がるビルの波を見つめ、自分は父の跡を継いで、いつかはここで、社長としての仕事をするのだろう。そう信じて疑っていなかった。
そんな信念も思い出も、12年前のあの出来事から、全て崩れ去ってしまっている。その原因を作った父を、許す訳にはいかない。だが、そんな父から逃げ回っている自分も、もっと許せなかった。
「恭平。俺はなぁ、志帆ちゃんの一件を悪いとはこれっぽっちも思っちゃいねぇぞ! 俺たちはこういう商売なんだ! 人様を不幸にしてでも、貸した金は返してもらう。それが俺たちの正義であり、信念なんだ!」
影山社長は、大きな体を縮めて、ふぅ、と息を吐き出した。そして再び空気を吹き込むように息を吸うが、急に声が小さくなっていた。
「……だが、これでもな、お前の気持ちは分かっているつもりだ。俺がやったことで、お前が俺を嫌って、家を出ていくのも当然だと思っているさ」
父は、すまなかった、と一言、恭平に言いたいのかも知れない。だがそれは、父のこれまでの『影山興業』の経営を否定することになる。だからこそ父には、謝罪の一つもできはしない。
どうしようもねぇな。呆れた気持ちから、涙と笑いが湧き出そうになる。何とかそれを堪え、恭平は部屋の突き当たりに広がる大きな窓を見た。
このビルが完成した時、恭平は16歳だった。父は誇らしげに恭平をこの部屋に入れ、あの窓からの眺めを見せてくれたものだった。
遠くまで広がるビルの波を見つめ、自分は父の跡を継いで、いつかはここで、社長としての仕事をするのだろう。そう信じて疑っていなかった。
そんな信念も思い出も、12年前のあの出来事から、全て崩れ去ってしまっている。その原因を作った父を、許す訳にはいかない。だが、そんな父から逃げ回っている自分も、もっと許せなかった。