やくたたずの恋
「……で、この俺の自信を、結果で示してやる。試しにこれから、借金を取り立ててきてやるよ。政治家の、しかも一人娘がいる、大口の顧客の借金をな!」
 明らかに一個人を指定する言葉。息子のやり口が見えた気がして、影山社長は思わず吹き出しそうになった。
「ああ……あれか! 今夜、どっかのパーティに参加する政治家のことか! 噂になってるもんなぁ! そのお嬢さんと近藤商事の御曹司が、パーティで婚約を発表するってな!」
 影山社長は話しながらも、水野へと視線で指示を出す。水野は頷くと、部屋の奥にある大きな金庫へと向かい、その中から一枚の書類を取り出した。
 恭平はその書類を受け取ると、内容を素早く確認する。「借用書」と大きく題された書類の、債務者の名前の部分には、「横田広明」とある。金額は2億。書類の発行日は、昨日の日付になっている。
「あの横田議員ってのは、最低な野郎だぞ」
 けっ、と唾を吐き捨てるように、影山社長は喉を鳴らす。
「近藤商事から融通してもらった金で借金を返済した途端、早速また金を借りやがった。近藤商事からはまだいくらか貰ってるはずだが、それでも足りねぇんだろうなぁ。何に使ってるんだか知らねぇが……」
 そんな最低な父親が、雛子を「役立たず」と呼び続けてきた。だからこそ雛子は、父親の役に立とうと、必死に恭平と結婚しようとしていたのだ。
 そう思えば、雛子の父親こそが雛子との出会いの恩人とも言えなくはない。だが、これはこれ、それはそれ。恩は恩、借金は借金だ。
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