やくたたずの恋
「とにかく、この額を取り立ててくりゃあいんだよな? ……ちなみに訊くけど、返済は金じゃなくてもいいんだろ? 借金の額相当の物品や不動産でもいいんだよな?」
「ああ。そうだな」
「なら……人でも構わねぇよな?」
 遠慮がちに尋ねる恭平に、影山社長は頬をぴくりと上げて笑う。
「そこに書いてある金額と釣り合うか、それ以上に価値がある、とお前が思えるものなら、金でも土地でも証券でも、可愛い子ちゃんでも何でも構わねぇよ。好きにしな」
 ならば、この額など安いぐらいだ。雛子が、こんなくだらない金額と釣り合うはずもない。恭平は借用書を丁寧に畳み、ジャケットの内ポケットへとしまい込んだ。
「おい、待て」
 そのまま社長室を出ていこうとした恭平へと、影山社長が声を掛ける。面倒くさそうに振り向いた恭平に、影山社長は自分の顎を指さした。
「その髭、剃っていけよ。借金取りってのはな、債務者よりも美しく、気高くするもんだ!」
 美しいアンド気高く。このオヤジからは一番程遠い言葉だ。
 ……じゃあ、てめぇのそのチビデブハゲを何とかしろよ!
 その言葉を飲み込み、恭平は苦笑いしながら「……分かったよ」と呟いた。
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