やくたたずの恋

     * * *


 パーティが開始して1時間近く経てば、会場の外のロビーは閑散としたものになる。受付係を担当していた、近藤商事の女性社員の3名は、この時やっと一息をついていた。
「お客様も途絶えたみたいだし、今のうちに整理しておこうか」
 リーダーの提案で、人がいなくなったのを見計らい、ご祝儀のチェックを始める。確認し終えたものは金庫へとしまい、芳名帳も記帳済みの分を片づける。
 残業代も出ない作業なのだから、さっさと終わらせるに限る。そんな気持ちから、3人の作業効率も上がる。あっという間に作業の終わりが見えた頃、ロビーの奥から一人の男がやって来るのが見えた。
 ほら、接客! 3人で顔を見合わせると、作業の手を止め、姿勢を正す。男は3人の待つ受付の前へとやって来ると、ゆったりとした仕草で一礼した。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「お越しいただき、ありがとうございます」
 3人も一斉に頭を下げ、同時に上げる。細身のストライプのスーツに、濃紺のネクタイ。続けて、その上にある顔が視線に入った瞬間、女たちの目の色が変わった。
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