やくたたずの恋
 ……王子様だ。王子様がここにいる!
 全員、口に出してはいないのに、同じことを思っていた。これは、ワイルド系の肉食王子だ、と。
「こちらにお名前をお願いします」
 カッコいい! と叫びたくなるのを抑え、冷静を装い、女の1人が芳名帳を指し示す。男はペンを取って名前を書き、ジャケットから祝儀袋を出す。3人全員が、その指の先のセクシーさに見惚れ、祝儀を受け取るのを忘れていたほどだ。
 焦ってリーダーの女が祝儀袋を受け取ると、男は空気を磨くような微笑みを浮かべ、背後にある会場のドアを見た。
「遅れてしまったけど……今、会場に入っても大丈夫かな?」
「は、はい! たぶん今は、当社の社長からの発表が行われているようなのですが……」
「もしかして……社長の息子さんの、結婚のこと?」
「ええ」
「そうか。それならちょうどよかった。遅れてきたけど、これだけタイミングぴったりだなんて、いいこともあるもんだな。それに、こうして可愛い女の子を3人も独り占めできたしね」
 可愛い。その言葉に反応して、3人の頬が蕩けるのを見ながら、男は会場へと向かって歩いていく。
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