やくたたずの恋
「カッコいい……」
 1人が惚けたように言った途端、それを合図にして、3人は一斉に芳名帳を見た。もちろん、そこに書かれた男の名前を確認するためだ。
「えーっと……影山……恭平?」
「影山……って、『影山興業』の人ってこと? もしかして……あの社長の息子さんとか!?」
「えーっ! でも、あの社長に全然似てないじゃん! 影山社長って、あのチビデブハゲの人でしょ?」 
 3人が思わず顔を上げて男を確認しようとすると、男もまた、こちらを見ていた。会場のドアの前に立った男が、こちらに手を振っている。3人は反射的に、手を振り返した。
「素敵……。王子様みたいですね……」
「うん……。彼女、いるのかな……」
「いてもいなくても、どっちでもいいですね。カッコいいし……」
 3人は男の姿に、ひたすらうっとりし続けている。その男が心の中では、「Dが1人、あとの2人はBか」と残念がっているのを知らずに。
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