やくたたずの恋
 この人が……おっさんなの!? あの「怪獣キョニュウスキー」なおっさんなの?
 確かにその男には、昔の恭平の面影があった。影山社長から渡された写真に写っていた、凛々しく、美しい姿。あの若者が12年の時を経て、若さの代わりに渋さを手に入れた感じだ。
「皆様お集まりのところ、お騒がせしてしまい、大変申し訳ありません。実は、横田先生に火急の用がございまして」
 男は飛び乗るようにしてステージに上がると、その奥に控えている、雛子の父親の前へと進む。怯えた表情を見せる彼に顔を近づけ、目を大きく見開いた。
「横田先生、あなたは酷い人だ。うちからの借金を一度返済なさったのはいいが、その後でまた借金をなさるとは……。この借金の返済もまた、お嬢さんをカタにして、近藤商事の金庫から出させるつもりですか?」
「い……言いがかりを……つけるな!」
「言いがかりも何も、この融資は本当なのだから、仕方ないでしょう?」
 男は目を離すことなく、内ポケットから借用書を取り出し、雛子の父の鼻先に広げる。それを目にした彼の顔からは、血の気が一気に引いていった。
「それにしてもおかしいですよね。近藤商事さんから援助を得て、我が社からの借金も返済できた。なのに、返済日から日を置かずに、再び我が社から融資を受けている。これってどういうことなんでしょうかね?」
 男はわざとらしく首を捻り、顎を撫でる。恭平が髭を撫でる仕草に似たそれは、彼が恭平であることを、雛子にはっきりと認識させるものだった。
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