やくたたずの恋
 細くつり上がる眉と、それに従うように切れ上がった目。それに、鼻筋だって定規で線を引いたように真っ直ぐだ。煙草を咥えている唇だって、「貧乳」だの「ヒヨコ」だのと言わない限り、引き締まった美しいものに見える。
 身なりだって、なかなかのものだ。スリーピースのスーツを着ているが、きっとオーダーのものだろう。しかも、布地はかなりの高額のものに違いない。シャツの袖口から見えるシルバーの腕時計もキラキラと輝き、「オレ、高価なんですよ」と自己主張している。
「詐欺師ってのは、あえて金持ちっぽい身なりでやって来るんです」
 そう言っていたのは、詐欺被害に遭い、父に泣きついてきた後援者の一人だ。
 ならば、この男だって怪しいものだ。雛子は警戒心をばらまき、話を先に進めようとした。
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