やくたたずの恋
 悲しいファーストキス。その感触を消そうと何度も拭うが、なかなか消えない。おっさん同様、ヤツの唇の感触も、嫌みったらしくしつこいのだ。
 で、でも、よく考えたら、この人が私の結婚相手なんだよね……。
 この酷い男が、私の夫になる……。
 はっきり言って、考えたくないことだった。この男との結婚のために、ここで働こうとまでしていると言うのに。
 キスだけでこれだけの嫌悪感を味わうならば、結婚したところで、一緒に生活できるかどうかも怪しいものだ。
「影山ちゃーん! おっはよー!」
 明るい声が響き、部屋のドアが大きな音を立てて開く。そこからは、昨日も見た、美しい顔と体を持った女性たちが入ってきた。
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