やくたたずの恋
 地獄で女神、と言うべきだろうか。こんな傷ついた状況で優しい声を掛けられると、どんな人であっても頼りたくなってしまう。
 雛子は赤ん坊のように手を伸ばし、悦子にしがみつく。縋れるものならば、電柱でも街路樹にでも、抱きつきたい気分だった。
「あ、味見……」
「味見?」
 雛子の言葉に、悦子が聞き返す。その瞬間、堤防が決壊したように、雛子の涙も感情も、全て溢れ出す。ううう、と小さな嗚咽を漏らし、雛子は悦子の胸に顔を埋めた。
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