ラヴィ~四神神葬~
「平塚。・・・黙っていたけど、実はそうなんだ」
「えぇっ、総司?」
「卓也は例の通り魔に襲われてケガを負ったんだ」
「ちょっと総司」
 止める卓也に彼は目配せする。

 ―確かに。

 もしも紫乃が『真実』を知ったなら、こんな騒ぎじゃ済まないだろう。
 二倍、三倍どころか、二乗、三乗の暴発が起こるであろうことは火を見るより明らかだ。

(でも、だからといって)
 彼女の迷走に拍車をかけるなんて。
 彼女の「迷論」を認めることが、彼女を抑える最適の術なのだと頭では分かっていても。
(女の子に間違われたってところを否定しないなんて、総司ひどすぎ)

 そんな卓也の内心を知ってか知らずにか、総司はいかにも、わざとらしい神妙な面持ちでうなずいた。
「というわけだから、平塚。頼りにしてるぞ」
「はい。私、卓也先輩のために頑張ります」

 一体、何を頑張るんだか・・・

「僕、ナースステーションで花瓶借りてくる。きれいな花がかわいそうだから」
 だから、せめてものささやかな抵抗だ。
 ドアを開けたら、思いっきり音を立てて閉めて、総司への批難を示してやろう・・・それは、卓也がそう考えていた矢先の出来事だった。

「―ツっ」

 ひらりと真紅の花弁がリノリウムの床に落ちた。―否、薔薇の花びらではない。
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