ラヴィ~四神神葬~

4節

 ひとり、心当たりの人物がいる。

 くるくるくる・・・

 零れた光が、ほこりの積もった床でまわっている。
 立入禁止のこの建物は、現在の新病棟が完成するまで使われていた病棟で、数ヶ月後には取り壊しが決定している。

 気配はこの中だ。

 総司の旧知の人物であり、薔薇の花束の贈り主でもある人物・・・

 不意に視覚でとらえきれない何かが、前を横切った。
 総司が踏み出した瞬間だ。
 轟音を立て、階段が崩壊する。
 建物の老朽化が原因でないことは、気配で分かった。

 人ではない。
 舞い上がった土煙の向こうに《何か》がいる。

 浮遊霊・・・

 昼間でも薄暗い廃屋。幽霊が出てもおかしくない。

 白い真綿のような《ソレ》が変異する。
 階段を崩落させた《力》は、敵意の証だ。再び攻撃を食らう前に、こちらから撃って出るか・・・

(だが・・・)
 一瞬のためらいが運命を分かつ。

 突如、白い影が空を裂いた。
 波動の直撃を受けた柱がガラガラと崩れ落ちる。壁すれすれに身を伏せ、辛うじて避けた総司が五感を研ぎ澄ます。

 宙にぽっかり浮かんでいる―《ソレ》は青白い微光を放つ、肩口で切り取られた巨大な右腕である。

(覇妖(はよう)だ)

 そっとしておけば危害を及ぼさない浮遊霊とは違う。
 肉体を持たない覇妖は「生命」を憎悪する。
 生ある者を無差別に襲う。

 覇妖に物理的攻撃は効かない。もしも無謀に仕掛けていたら、人間を遥かに凌駕する覇妖の怪力に、総司の命は失われていたことだろう。
 ―しかし。
(正体が分かれば策はある)
 鋼の腕が総司めがけて伸びる。総司が跳んだ。
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