ラヴィ~四神神葬~

6節

「無事か」
「あぁ」

 幸いケガはない。
 即座に総司が身を挺してかばったお陰で、雅樹も特に目立った外傷はないようだ。
 しかし・・・
 目の前を塞いだ巨大なコンクリートの残骸に、総司は拳を叩き付けた。

 光は絶たれた。
 出口はコンクリートで完全に閉ざされてしまった。

 崩落は自然に起きたものではない。二人をこの廃棟に閉じ込めるために起こされた人為的な事故だ。
 呪陣が見破られた時に作動する、いわば時限発火装置のようなものである。

 これが呪陣の術者によって仕組まれた罠である以上、脱出は容易でない。総司の《雪》の《力》をもってしても、コンクリートは簡単には割れないだろう。
(でも)
 諦めるわけにはいかない。

 前に突き出した総司の両手が巨大なコンクリートを捕える。
 精神の糸を束ね、掌に《力》を凝集させていく。白銀が舞う。雪の結晶がコンクリートの分子運動を減速させる。表層が白く凍結し始めた。
 だが、まだだ。
 足りない。
 コンクリートを破壊するための決定打がない。このままでは徒に《雪》を消費するだけだ。
「・・・総司」
 背後で雅樹が息を飲むように呟いた。

 淡雪の狭間で、静かに光り輝く青白い微光。床から伸びた幾つもの腕だ。

(まだいたのか)
息を潜めていた生き残りの覇妖が、うごめき始めた。一刻も早く、ここから脱出せねばならない、こんな時に。

 しかし・・・

 覇妖の様子がおかしい。
 敵愾心の強い覇妖が襲いかかってこない。
 それどころか白い腕の群れは二人を無視して、ツタのように絡み合いながらコンクリートの壁をはい登り出した。
直感した。

この覇妖達は・・・
(ここから出ようとしている)

 人の心など遠の昔に忘れてしまったはずの覇妖達が、自らの意志で、この場所から抜け出そうと・・・
 心の迷路を解くために、必死に出口を探している。
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