ラヴィ~四神神葬~

2節

 蝉が鳴いている。
 遠く、どこか遠くの空の下で・・・

 意識に響く。

 真夏の太陽が光の弧を描いた。頭上を覆う木陰から陽光が木漏れ、地面で重なり合って揺れている。

 夏の終わり―

 命の限り鳴く蝉の声が、彼を呼び起こした。

「総司・・・っ」
 目覚めた瞬間、親友の名を呼んだ。が、総司はいない。

 ここは・・・?
  砂場とブランコ。
  瞳に映ったのは、見慣れた景色。
 ・・・幼い頃、よく遊んだ公園だ。

 木陰にいるとはいえ、炎天下の午後は気温30℃を優に越えている。玉の汗が卓也の額を滑り落ちた。
(僕は病院にいたはず・・・)
 なのに、どうして?

「暗示をかけて、オレが連れ出したんだよ」
 答えはすぐに返ってきた。
「君とは一度ゆっくり話がしたかったから」

 チリン・・・

 涼やかな音色で鈴が鳴った。
 真後ろ―
 鈴の音は、卓也の背にした木の裏からだ。
「・・・だれ?」
 声の端が掠れたのは暑さのせいじゃない。
 動けない。
 今すぐここから逃げ出したいのに。
 動いたら・・・一瞬でも隙を見せたら、命の保障はない。背中を合わせた木の裏から、獲物を狙う肉食獣の殺気がひしひし伝わってくる。

「そうだ。君の質問に三つだけ答えてあげる。じゃないと会話が弾みそうにないからね」
 クスリと笑う声が聞こえた。
 木の裏側で少年は、おびえている卓也とのやり取りを楽しんでいる。
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