恋が始まるいっぽ前!
気づけば、私は…

ベッドの上。

どうやら…あの後、貧血で倒れてしまったらしいが。憤慨していた感情さえ消え失せていて、その、経緯は…覚えてはいなかった。

白衣の魔女…、紺野先生は、ニシハルがここまで連れてきたのだと…教えてくれた。


頭上に…降ってきた一冊のノート。

仕切りになっているカーテンを開けて、ニシハルが……飽きれ顔をしてる。


「……よくもまあ、そんなに調べあげたものだよなぁ。おかしいとは思ったんだよ。俺のことキライなはずなのに、周りをうろちょろしてるから……。」


何もかも…
お見通しだった。


聞きたいことは、ちゃんと聞けと言った彼に…

ちゃんと答えるって言った彼に…


聞きたいことは、山ほどあったはずなのに。

いざ、対峙すると…口に出るのは、陳腐な質問ばかり。


「………もういいです。すみません、降参します。」


「……。降参?」


「ええ。柄にもないことをしてしまいました。」


「…………。」


「…もう、纏わり付くのはやめます。」


「……………。」


「…結構ひどいこと言ってしまいました。なのに…助けていただいて、ありがとうございました。色々と思い違いをしてたらすみません。あとは…、もう関わらないので。では……、私はこれで。」


これ以上は。
彼にも、私にも苦痛になるだけ。


この胸のチクチクは…。

何かの警告なのかもしれない。



立ち上がって歩き出した私の肩を…
ニシハルが掴む。


体が反転して、



いとも簡単に……


壁際に、追いやられる。

壁に手を押しあてて、私の行く手を…阻む。


「……あの…?今…行くっていいませんでしたか?」


「ああ…、うん。」


「では…、なぜこんなことに?」



「……何でだろうな。」


ニシハルはニッと笑うと……。



「……らしくないんじゃないかと思って。だってお前。簡単に…降参とかするようなタマじゃないだろ?」


「……はぁ…。」


……?どういうこと?


「…簡単には靡かないくらいがいいのになあ。もうちょっと頑張ってみれば?」


「……あの……。何を…ですか?」


「ソレ。『ニシハルノート』。置いて行く気?」


「…………?!」



「案外…、面白いかもよ?お前が思う程…、俺は人嫌いではないし、できるならもっと深ーい付き合いしていけたらって思う。その相手に…、なってみろよ。」


「……は?」


なぜ……?


「うわ。今、すっげー露骨に嫌なカオしたな。」


彼は私の頬を掴むと。
びよ~~んと横に引っ張った。

涼しげな瞳は……すぐそこに。

意地悪なのに、妖艶な…口元が。わずかに…緩んでいた。

「……何をしているのでしょうか?」


「その顔。ポーカーフェイスを…崩してやりたいんだよな。…他の先生ができなかったことを、俺ができたらすごくないか?」


「……いえ、別に。」


「そーきたか。でも…、お前が人の為に駆け回る姿、俺結構好きだけど。」


「……それはどうも。」


何かしら……、
……顔が熱い。



「だから。ちゃんと相手するから……、かかって来い。」


「……………。」




私には。

先生という生き物には全く興味などなくて……。


知ろうが知るまいが、今までどうでも良かった。


なのに………。



ニシハルは別だった。


まるで掴み所がなくて、

宇宙人のようで、

訳がわからなくて……、


そして…。
少しだけ、面白い。





……興味深いと思えたのは。

この人が……初めてだった。









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