ワガママ狼男と同居始めました。





「志木。どうしたの?

ボーッとして……。」



焦点を合わせると、目の前には紅葉がいた。


「いや……。色々思い出してて……。」



「珍しい……」


紅葉は口元を押さえて、クスクスと笑った。




「紅葉は『思い出』ってどう思う?」



「思い出?うーん……。」



「……俺は頼りないものだと思うよ。

放っておけば風化して、
大切にすればするほど美化される。

まがい物だ。」




「……でもさ……。

今だって志木は思い出してたんでしょ?

思い出があるからそれを恋しく思える。」




「そんなの…………」




偽善論だ、と言おうとしてやめた。




「じゃあ、俺が思い出になってもお前は風化も美化もせず、思い出してくれるわけだ。」



「志木は思い出になるの?」



そこかよ……。







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