ワガママ狼男と同居始めました。
志木side
丙が顔を手で覆う。
「……いつもみたいに町に下りていって、帰り道、ヒトにつけられて……それで……」
「…………。」
「……泣いてたんだ……。」
伏せていた顔を上げて、丙の顔を見る。
「……お前があの家を出ていった日の夜。
私にも聞かれぬように。声を殺して。」
なんで……。
だってあの日……笑顔で……。
「……丁はお前に惚れていたんだ。」
「……そんな……。」
丁……。
「……帰ってこい。志木。
独りで暮らすにはあの山は寒すぎる。」
あの時と同じことを言っている。
初めて会ったときと。