ガラスの靴はきみのもの
「……お前がさあ、今何を抱えてるのかとか、何を思ってるのかとか、俺はずっと傍にいられるわけじゃないからわからねえけどさあ、」
……ねえ、神様。
私の肩に顔を落としながら、今にも泣き出しそうに声を震わせるこの男は。
ただでさえこの辺りを歩いていたら目立って仕方がないのに、変装もせずに早朝から私の部屋に乱入してきて再会を台なしにしてくれたこのばか男は。
「俺は那智を置いて行ったりしないよ、ぜったい」
どうしていきなり私の前に現れた途端、こうもわかりきっているかのように、
私のいちばん欲しい言葉をくれるの。
「……だって一瑠、どんどん先に進んじゃうじゃん」
「……那智、」
「ちょっと前まであんなに近くにいたのにさあ、私がまだもたもたしてる間に、どんどん遠くに行っちゃうじゃん」
「俺、ここにいるよ」
体温が交わり、鼓動が重なり、まるでひとつになったみたいに寄り添って。
そうだね。きみの言う通り。
今、確かに私たちは。
「ちゃんと、傍にいるよ」
彼が遠くなったわけじゃない、きっとまたあの頃みたいに、私が勝手に諦めてしまっただけなのだと。
彼の歩む姿を羨みすぎて、私が勝手に立ち止まってしまっただけなのだと。
この愛しい人は、いつだって。