ガラスの靴はきみのもの
「今までみたいに、ずっと俺のこと見てて。いつかぜったい迎えに来るから」
私を抱きしめる腕を緩めて顔を上げた一瑠は、優しく笑いながら私のボサボサ頭をくしゃりと撫でた。
テレビでは幾度となく見てきた彼の笑顔。
ただひとり、私だけに向けられたそれを見るのは久しぶりで。だから本当に嬉しくて。
「……いいの?私じゃないかもしれないよ」
「え?」
「一瑠のシンデレラは、私じゃないかもしれない」
彼が有名になって、いつの間にか目の前に差し出されていたガラスの靴は。私には少し窮屈で、これを履いて歩いていくことはきっとできないけれど。
それでも。
「万が一そうだとしても、関係ねえかな」
そうだとわかっている上で、王子様が喜んで私を選んでくれるのなら。
このガラスの靴は、もう私のものだと言ってもいいのかもしれない。
「あーやばい、俺今日寝てねえんだわ。ちょっとだけベッド貸して」
「今日は仕事ないの?」
「午後から撮影ありますけど」
「……わお」
『ガラスの靴はきみのもの』
-END-