ガラスの靴はきみのもの
「でも……伊達啓介、ついに熱愛出ちゃいましたねー。ご存じです?」
「あ、はい。なんか、グラビアアイドルと」
「ファンとしてはもう少し夢見させてほしかったですけどね」
伊達啓介ととあるグラビアアイドルとのお泊り愛報道が出たのは、つい先週のこと。
私はそこまで彼贔屓だったわけではないから、ふーんそうなんだ程度にしか思わなかったけれど……やっぱり、ショックを受けたファンは多いはず。
実際私の友達の中にも、そのせいで彼のファンをやめるという子が何人もいた。
俳優。タレント。アイドル。
みんなに夢を売る仕事。
それは、一見華やかで、
きらきらしてみえるけれど。
「これで岸本くんにも熱愛が出たりしたら、しばらく立ち直れませんよ、私」
冗談めかして笑う美容師さんの指先から、切られた私の髪の毛がパラパラと落ちていく。
彼と最後に会ったときはまだ短かった髪。床に無数に散らばった束の長さは、彼と離れていた時間の長さ、そのもの。
(……熱愛、か)
そっと息を吐いて雑誌を閉じ、やっぱりまた開いてページをめくっていく。
めくる手を止めたページで、岸本一瑠がさっきと何ひとつ変わらないやわらかな笑みをこちらに向けていた。
私にだけではなく、
私を含む、この雑誌のすべての読者に対して、分け隔てのない平等な微笑みを。