四季。姉の戻らない秋
わさびのツンとした香りが鼻腔を抜けるのを感じて、『なくなった』ぶんだけ空いたスペースに視線を落とした。
「もう暦も成人式だね。お母さん暦が振袖オレンジにするって言ったときびっくりしちゃった」
「なんでよ。オレンジ、似合ってなかった?」
「似合ってたけど、あなた普段オレンジ色の服なんて着ないじゃない」
味噌汁のお椀をテーブルに戻した母が、やさしい眼でわたしを見た。
「着ないけど、あんま人とかぶんない色がいいじゃん。ね、お父さん」
母のとなりでイカとタコばかり食べている父に話を振ると、しばらくわたしを見つめたあと漸く口を開いた。
「…あぁ、暦は明るい色が似合うからな。楽しみだな、成人式」
「うん。中学の友達とか全然会ってなかったからなぁ。みんななにしてんだろ」